■これがソ連版ランボーだ!■
皆さんは「ソ連版ランボー」をご存じだろうか? あのシルベスター・スタローン主演のアクション映画「ランボー」でいつも敵役をさせられるソ連がついにキレて(かどうかは知らないが)、対抗策として作ったアクション映画である。しかもこの映画は日本でも劇場公開されている。
そこで、このコーナーでは世間一般ではほとんど話題にならなかった、このスゴい映画のデータを可能な限りの記憶と記録に基づいて、ご紹介したいと思う。記憶については多少の事実誤認や欠落もあると思うが、どうかご容赦いただきたい。おおむね正確なはずである。
■キャスト |
■スタッフ |
■シャトーヒン少佐(ミハイル・ノシュキン) 本作の主人公。カシン級ミサイル駆逐艦で祖国に帰る途中、事件に巻き込まれる。海軍歩兵が四人だけミサイル駆逐艦に乗っている理由は今イチ不明。艦長との会話から推測するとシャトーヒン少佐の原隊は海外(?)での任務を終えて一足先に帰っているらしい。何らかの理由で遅れた4人を艦長が「ついでに乗っけてやる」ことにしたらしい。 本人はなかなか味のある人物。冒頭から「故郷に帰って父親の農作業を手伝わなきゃ」とか「ナイチンゲールの鳴き声が聞きたい」とか詩情あふれるセリフを言う。ランボーと違う知的なヒーローだということをアピールするためか? 作中ではなんとG3アサルトライフルを使用。 あ、ちなみに海軍歩兵というのはソ連海軍が独自に保有する地上軍部隊のことです。 |
■監督ミハイル・ヨシフォーヴィチ・トマニシビリ
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■ダニロフ准尉(セルゲイ・ノシボフ)
ひょっとするとパーシン二等兵と名前を取り違えているかもしれないが、准尉であることはパンフから明白なので許せ。作中ではAKMを使用。この人についてはほとんど印象に残ってない。シャトーヒンの忠実な副官といった感じだった気はする。クルグロフ伍長と顔の特徴が似ているので見分けがつきにくい。 |
■美術アンドレイ・ワシリェーヴィチ・ミャフコフ 1923年生まれ。映画ではソ連製のミサイルや艦船をどうやったらアメリカ兵器らしく見せるかに苦労したという。そこで彼が採用した手段はボディにUSAと大描きし、バカでかい星条旗を背負わせ、そこかしこにコカコーラの空き缶を配置するというものであった。 |
■クルグロフ伍長(アレクサンドル・ファチューシン) 階級章が写っている写真が不鮮明なので、伍長じゃないかもしれない。でも下士官であることは確か。力自慢の三枚目といった役どころでアメ公を大量虐殺する痛快な男。作中ではPK転機にボックスマガジンをくっつけて使用。 |
■脚本エヴゲーニー・メーシャツェフ 経歴不明 |
■パーシン二等兵(ナルタイ・ベガリン) 血気盛んな若者。帝制時代から続く軍人の家系であることを誇りにしている。手柄を立てて英雄になりたがっているが、シャトーヒン少佐からは「立派な家系なんだから絶やさないようにしろ」とたしなめられる。作中ではAKMを使用。ハリウッド映画だったら間違いなくこいつが主役だったろう。 |
■撮影ボリス・ボンダレンコ 経歴不明 |
■ハリソン(ヴィタリー・ジコラ) アメリカの大金持ち。自分の別荘用に島を保有していて、そこに向かって夫婦でクルージング中に事件に巻き込まれる。そう、この映画には「アメリカの民間人をソ連の軍人が助ける」という構図があるのだ。クライマックスでシャトーヒン少佐らと一緒に戦うが、基本的にはステレオタイプなアメリカ人として描かれている。妻に向かって「奴らはソ連軍だ。絶対に信用できない」という嬉しいセリフを吐いてくれる。 |
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■キャロライン(ベロニカ・イソトーワ) ハリソンの妻。途中でアメリカの特殊部隊(?)に殺されてしまう。本作唯一の女性キャラ。 |
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■ヘッソルト(アルミス・リツィティス) 悪役。ベトナム帰りの元軍人。彼の地で民間人を虐殺したことがあり、それがトラウマになっている。またその時の古傷も未だに痛むという難儀な奴。劇中、悲惨なベトナムの惨状(ニュースフィルム)がしつこくフラッシュバックする。一見すると黒人のようなヒスパニックのような顔つきなのだが、目はしっかり青い。人種不明の役者である。 |
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■クラウダー(俳優の名前は不明)
アメリカの武器商人。米ソで軍縮が進み、自分の商売がヒマになることを恐れて陰謀をめぐらす。「CIAの陰謀」というソ連が大好きなフレーズを連想させる人物だが、政府筋とは別の人物。冒頭でゴルフをするシーンがあるのだが、役者さんは一度もやったことがないのがミエミエで笑える。 |
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■謎の東洋人(俳優の名前は不明) ウソではない。本当に登場する。目がつり上がり、どじょうヒゲを生やしたハゲの小男。腕の古傷が痛むヘッソルトのためにクラウダーがよこした「マッサージ師」。登場の瞬間、わざとらしい微笑みで何度もお辞儀をする怪しさ大爆発の人物。案の定、その正体はヘッソルトが勝手なことをしないようにとクラウダーが仕向けた監視人である。アクション映画には東洋の暗殺者が絶対に出なければならないという思い込みがスタッフにあるらしい。 |
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■アメリカ軍人たち(その他大勢) とにかくステレオタイプに描かれている。パターンはほぼ3つ。タバコや葉巻を持っている、サングラスをかけている、コカコーラの缶を持っている、のどれか。ヘッソルトの部下たちも似たようなもの。 |
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■ソ連軍人たち(その他大勢) とりたてて精強とか優秀、といった描かれ方はされていない。むしろ平和が脅かされていることを憂慮し、常に世界の安全を考えている思慮深い人物たちとして描かれている。 つまりタカ派がいない。これも出来過ぎではある。 |
■ストーリー
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■見どころ&ツッコミ
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オープニング。黒いバックにロシア語のテロップが長々と映し出される。アメリカの兵器産業がアメリカ政府に送った書簡という形をとっており「このまま軍縮を続けるならアメリカの安全保障に問題が発生しても知らんぞ」という脅しというか、開き直りのような文章が綴られる。
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まずいきなりスラヴァ級ミサイル巡洋艦の空撮シーンから映画はスタート。回り込みがすごい。アメリカ空母のブリッジはごく普通の貨物船のものを流用。空母の映像はニュースフィルムからの転用で、F14の発着シーンなどが使われている。
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画面はいきなりちょっと南国。空港に降り立つ男を迎えるベンツ。ヘッソルトだ。彼はアメリカの武器商人クラウダーらが率いるアメリカ軍産複合体のトップが集まるゴルフ場に呼ばれたのである。
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南国リゾートのロケ場所は不明。おそらく黒海沿岸のクリミア辺りではなかろうか。スタッフとしてはフロリダのイメージなのかもしれない。
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やがて、演習海域に客船が近づいてくる。ヘッソルトはトラウマと戦いながらミサイルを発射! ついにおそるべき陰謀の火ぶたが切られてしまう。しかし、塗装はアメリカ製でも中味はソ連製である。ミサイルは客船を目前にみるみるコースを外れていく。その先にあるのは一隻の大型ヨット。アメリカの大富豪ハリソンが妻キャロラインと共にクルージングを楽しんでいたのだ。どうするか? 客船を沈めなければ作戦は失敗だ。ヘッソルトはミサイルの自爆を命じる。 だが、ミサイルの爆発は海面間際で起きたため、ハリソンのヨットを吹き飛ばすには十分な威力があった。訳も分からず海中に放り出されるハリソンとキャロライン。彼らは何とか救命ボートにしがみつき、遭難信号を出しながら、近くの島に流れ着く。 |
この時のミサイルの特撮はスゴイ迫力である。おそらくピアノ線で吊られていると思われるが、大きくローリングしながら画面に向かって突進してくるのだ。ハイテクとは違う、別の特撮技術であろう。この辺りの雰囲気は「不思議惑星キンザザ」にも通じるものがあるので、参考にされたい。
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不審なミサイルの航跡と爆発はシャトーヒン少佐の乗る駆逐艦でもキャッチしていた。と同時に遭難信号が受信されたため、艦長は針路を変更。遭難者の救助に向かう。その頃、のっけからミサイル発射に失敗したヘッソルトはクラウダーから叱責を受けていた。だがヘッソルトは二発目のミサイルを発射するという。しかし、ミサイル爆発の一件で米ソ両国をすでに相手を非難しあっており、事態は次第に危険な状態になっていく。 一方、シャトーヒン少佐の乗る駆逐艦はハリソンらが流れ着いた無人島の沖合いに来ていた。上陸したシャトーヒン少佐はハリソン夫妻と接触する。だが、当のハリソンはミサイルを発射したのはソ連軍だと思い、シャトーヒンらに非協力的だった。船の中で休んではという勧めにも応じない。 しかたないので艦長は軍医を一人、浜辺に残す。キャロラインが怪我をしているからだ。だが、この無人島こそがヘッソルトの秘密基地だった。深夜、がけの上からハンググライダーが飛び立つ。それは音もなくハリソンのテント近くに降下し、覆面姿のパイロットたちはサイレンサー拳銃で軍医を射殺する。騒ぎを聞きつけたハリソンがテントから飛び出す。幸い、彼は撃たれなかったものの、代わりに妻のキャロラインが犠牲となった。 キャロラインを失ったハリソンは失意の中にあった。が、一方で軍医を失ったソ連軍も大規模な捜索を開始する。不審なミサイルに暗殺者の飛来。この島には何かがあるのだ。 |
アメリカ人と接するソ連軍人たちはとても温厚で礼儀正しい。艦長が「なぜ、彼らは乗船してこないのかね?」と聞くとシャトーヒンは「夫人が遠慮しております」とキチンと報告する。でもその後に「彼らはアメリカの大金持ちで島を丸ごと一個所有しているそうですよ」と続ける。その時の二人の笑顔が意味深。
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その頃、ソ連本国の海軍司令部では衛星写真や謎のミサイルのデータから無人島の秘密ミサイル基地の位置をつかんでいた。その一方でアメリカは大規模な軍事作戦を展開し、ソ連海軍との睨み合いが続いている。海軍司令部は謎のミサイルがアメリカ海軍の軍事作戦なのか、第三者による仕業なのか計り兼ねていた。しかし、幸い間近に駆逐艦がいる。しかもそこにはシャトーヒン少佐が乗り込んでいるのだ。海軍司令部はシャトーヒン少佐に島の偵察を命じる。
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ここでようやくソ連海軍のお偉方が出てくる。しかし、次の瞬間ブッ飛ぶような場面が展開する。作戦室ではモニターとコンソールがずらりと並び、米ソの艦隊がにらみあう様子が巨大スクリーンに映し出されているのだが、この場所は実はモスクワ郊外の星の町にある「宇宙飛行管制センター」そのものなのだ! 低予算をホンモノでカバーするという掟破りの方法である。とはいえ、映し出される米ソ艦隊の図はCGでも動画でもなく、ただ艦船の側面図がずらりと並ぶだけの簡単なもの。基本的にはスライドを上映しているだけである。
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ついにシャトーヒン少佐らは完全武装で島に上陸する。奥地へと進んでいくシャトーヒン少佐たち。やがてアメリカ人どもの待ち伏せにあう。一度は武器を地面におくシャトーヒンだが、手を挙げると見せかけて背中からナイフを投げる。クルゴロフらも反撃に転じる。どうやらアメリカ人がこの陰謀に関わっているらしい。だとしたら大変なことだ。するとハリソンが現れる。彼も妻の仇を討つつもりでいた。シャトーヒンはハリソンの同行を認め、5人でヘッソルトの地下基地に潜入する。
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海軍歩兵の面目躍如というシーンである。しかし白とオレンジのド派手な塗装の二重反転ヘリコプターが哀愁を帯びたBGMを背景に島に着陸するシーンは燃えるというより、異様。 なお彼らが着ているのはKLMK迷彩つなぎだが、撮影ではエリとポケットがついた2ピース・パージョンが使用され、階級章が取りつけられている。このタイプの服は見たことがないのであが、もしかしたら映画用の改造なのかもしれない。 ちなみに島のシーンはなかなか。熱帯植物が生い茂り、ヤシの木なども散見される。キューバあたりでロケしたのか興味深いところである。で、この時にやっつけたアメリカ兵が持っているのがG3ライフル。シャトーヒン少佐は自分の武器を捨ててしまったので、これを使うことになる。裏返せばランボーが常に共産側の銃を奪って戦っているのを忠実になぞった演出だとも推測できる。実際、この映画では西側のアクション映画を観察して、忠実に再現しようとしたヘンな生真面目さがあちこちで感じられる。 とはいえ、M16は当時のソ連では例えモデルガンでも入手は困難だったのだろうか。 |
その頃、ヘッソルトは第2のミサイル攻撃を準備していた。だが、それは核弾頭を積んだ巡航ミサイルであり、しかも目標はソ連だった。もし命中すれば第三次世界大戦が始まってしまう。ベトナムでトラウマになったヘッソルトはヤケクソになって全てをリセットしようというのか? しかも、この非常時に謎の東洋人がマッサージをすると言ってきた。だがヘッソルトは謎の東洋人を絞め殺してしまう。もうオレは誰の指図も受けないぞというわけであるが、こいつの行動にはだんだん脈絡がなくなってくる。 |
前述した通りミサイル発射管制室はかなり寒いセット。しかし、コンクリート製の暗い通路を台車に乗せられて進んでくるミサイルは本物のソ連製ミサイルのようにも見える。隔壁もしっかりとした作りで本物の軍事施設でのロケかもしれない。ただし、アチコチにわざとらしいぐらいデカデカとUS AIRFORCEの文字が描かれている。ちなみに、このシーンでミサイルのそばにいる作業員たちは透明なビニール製の防護服を着ている。これは当時のソ連の原発で実際に見られた装備である。
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基地に潜入したシャトーヒン少佐らの活躍でついにミサイル発射は阻止された。ヘッソルトは潜水艦で逃亡を計り、部下たちはミサイル艇でカシン級駆逐艦に攻撃をしかける。しかし、ソ連海軍は強いのだ。飛来するミサイルを次々と撃ち落とし、ついにはヘッソルトの潜水艦をも撃沈に成功する。一方、敵の基地を爆破したシャトーヒン少佐たちはなおも悪のアメリカ人を追う。星条旗をかかげたミサイル艇に向かってロケットランチャーを放ち、ここに悪は滅ぼされたのであった。
だが、全員が安堵したのも束の間、アメリカの生き残りが最後の力を振り絞ってライフルを発射。銃弾がシャトーヒン少佐の胸を貫く。 |
ついに大型兵器のぶつかりあいである。オーサ1型ミサイル艇がタタミ一畳はあろうかという星条旗をかかげて現われるシーンはイスから転げ落ちそうになった。一応、バレットライフルみたいな銃を乗せているが、これは昔の対戦車ライフルのようだ。 |
エンディング。今は亡きシャトーヒン少佐の故郷に生き残った三人が向かう。迎えに出たシャトーヒンの老父は彼らの沈痛な表情から息子の死を瞬時に悟り、目をつぶる。
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で、このシーンがなかなかスゴイ。シャトーヒンの故郷に向かうUAZ−469(ソ連のジープ)にちゃんと海軍歩兵部隊のマークがペイントされてるのは当然として、そこから降り立つ三人は全員が「昇進」しており、しかもソ連邦英雄として「金星メダル」を付けているのだ! こういう所は芸が細かいね。 ちなみにショウビズではモスクワでの封切りの模様をレポートしていたが、観客の一人が「元がひどいだけにひどい映画ですね」と言っていた。自国の映画をケナしているのか、間接的にランボーをケナしているのかは不明。まぁ、どっちでもいいか。 |
■この映画を私たちが再び見ることはできるのか?
ここで使った映画のスチル写真は、すべて映画のパンフとチラシからスキャンしたものである。当然、これらの著作権は製作元であるモスフィルムが所有しているが、日本では誰にその権利があるのかは不明である。
映画「デタッチド・ミッション」は当時、東京の墨田区に本社を置く「株式会社マウント・ライト・コーポレーション」がソ連映画の海外配給を担当していた「ソヴェクスポートフィルム」から提供を受けて日本で公開したものである。
しかし、同社は1992年頃から急激に業績を悪化させ、現在は解散して存在していない。「デタッチド・ミッション」については「ビデオ化されたらしい」という漠然とした噂があるものの、未だに実物にはお目にかかっていない。というわけで、日本国内でこの映画の権利を持っているという方は是非ともご連絡頂きたいものである。ビデオにしてください。買います。
このページは同作品の著作権を侵害する目的で作成したのではなく、今、どこにあるか判らない、この隠れた名作を発掘する手がかりとして敢えて公開するものである。ちなみに「株式会社マウント・ライト・コーポレーション」は「PASTEL VIDEO(パステルビデオ)」のブランド名でソ連軍の記録映画「ドキュメント ザ・ソ連軍(原題の邦訳は「勝利の継承者」) 」なる作品をビデオ販売している。このビデオについてはごくまれに中古ビデオ屋で見かけることがある。
また、現在のロシアでは多くのソ連映画がビデオ化されているが「デタッチド・ミッション」がビデオ化されているという情報はない。アナハチでも時折、モスクワでリサーチしているが、現在のところ成果はない。ロシアのミリタリーマニアもこの作品の存在は知っているものの、ビデオは見たことがないという。
おそらく原盤のフィルムは今もモスフィルムの倉庫で眠っているのだろう。冷戦時代のハリウッド映画に一矢報いた作品だけに惜しい話である。
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